山の冬、大根を干しながら「〇〇家牛丼」に想いを馳せる
大塔地域の山奥に移住して十年以上。冬になると、キーンと冷えた空気が集落を包み、薪ストーブの匂いと炎がゆっくりと揺れます。そんな景色にもすっかり馴染み、今では立派な「山の住人」になったなぁと思うのですが……どうやら私の“口”だけは、まだ都会を忘れられないようです。手作りの滋味深い料理を食べていても、ふとした瞬間に無性に食べたくなるものがあるのです。
〇〇家の牛丼(つゆだく)が食べたい。
そう思っても、ここは紀伊半島の屋根。最寄りのお店まで車で片道一時間。 その情熱を天秤にかけ、結局は静かに冷蔵庫を開けるのがいつものパターンです。十年経っても都会の味に恋い焦がれる。この「口の贅沢」だけは、山暮らしの修行がまだ足りないのかもしれません(笑)
そんな都会への煩悩を打ち消すように、冬の大塔では手が忙しく動きます。この季節は、一年分の「保存食」を仕込む大切な時期。我が家では毎年、味噌や漬物を仕込みます。手間はかかりますが、冬の冷たい時期に作る食べ物たちは、山暮らしにおいて何よりの安心材料です。

今年は定番の「大根の漬物」を作りました。12月、畑から選んだ大根の泥を落とし、軒下に並べて干す。水分が抜けて少ししんなりした大根を、米ぬかと塩、そして少しの遊び心を加えて漬け込んでいきます。


1~2ヶ月後、樽を開けたときに立ち上るあの香りは、どんな高級レストランのメインディッシュにも負けない冬のご馳走です。……たとえその数日後に、また「牛丼」を思い出して悶絶するとしても。

大塔地域への移住を考えているあなたへ
移住十年選手の私から言えることはひとつ。「完璧な山の住人」にならなくていいということです。 伝統的な保存食を作り、自然を敬いながらも、心の中で都会のジャンクフード(?)を愛でるそのアンバランスさこそが、長く楽しく住み続ける秘訣ではないでしょうか。
大塔の冬は厳しいですが、それ以上に温かい手仕事と、人間らしい「欲」に満ちています。 あなたも、自分らしい「山の口」と「都会の口」を両方持って、この地に飛び込んでみませんか。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
